福岡地方裁判所 昭和54年(行ウ)4号 判決 1980年7月24日
福岡市東区大字浜男二九三番地
原告
森興蔵
右訴訟代理人弁護士
小泉幸雄
同
津田聴夫
右訴訟復代理人弁護士
宮原貞喜
同市同区大字浜男七三三-二三
被告
香椎税務署長 有馬国光
右指定代理人
中野昌治
同
伊香賀静雄
同
金子久生
同
中島亨
同
荒牧敬有
同
上野茂興
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告に対し、昭和五二年六月二五日付でなした昭和四七年度分の所得税更正処分および重加算税賦課決定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、原告の昭和四七年度の所得税について、昭和五二年六月二五日付で左記のとおり更正処分および重加算税賦課決定処分をした。
記
更正処分前の確定納税額 八三三万四、〇〇〇円
更正処分後の確定納税額 一、一三三万四、〇〇〇円
重加算税額 九〇万円
2 原告は、右処分を不服として昭和五二年八月二〇日被告に対し異議申立てをしたが、被告は、同年一一月九日付で右申立てを棄却したので、更に原告は、同年一二月五日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五三年一二月一四日付で右審査請求を棄却した。
3 しかしながら、被告の原告に対する本件更正処分および重加算税賦課決定処分は、原告が昭和四七年一一月二日福岡市東区大字浜男字八尻五番の三外三筆の山林一万〇、九一一平方メートル(以下、本件土地という。)を国崎晴雄に売却(以下、本件売買という。)した際、その仲介をなした博洋土地建物株式会社(以下、博洋という。)に謝礼金として二、〇〇〇万円を支払ったものであるにもかかわらず、被告は右支出を認めず右金額相当分を申告外長期譲渡所得と認定し、これを前提として右各処分をなしたものであるから違法である。
よって、原告は、本件更正処分および重加算税賦課決定処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1および2の事実は、いずれも認める。
2 請求原因3の事実のうち、原告が、博洋に対し、謝礼金二、〇〇〇万円を支払った事実は否認し、その余の事実は認める。
三 抗弁
1 原告の昭和四七年度の所得税の確定申告、更正、裁決の内容は別紙のとおりである。
2 本件売買に際し、原告から博洋に謝礼金として二、〇〇〇万円支払われたことはない。
よって、原告主張の謝礼金二、〇〇〇万円相当額を申告外長期譲渡所得と認定してなした本件更正処分は適法である。
3 原告は、博洋の実質上の経営者である松井博との間で、本件売買の際、原告から博洋に謝礼金として二、〇〇〇万円支払わたかの如く仮装することを共謀し、博洋から原告に架空の領収書を発行した。
よって、原告は、右所得を隠ぺいしたものであるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
抗弁2および3の事実は否認する。
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証、第二号証の一ないし三
2 乙第一ないし第六号証、第一〇号証の二、四、第一二号証の五、第一四号証の成立を認める。乙第七ないし第九号証、第一二号証の二ないし四、第一三号証の成立を否認する。その余の乙号各証の成立は知らない。
二 被告
1 乙第一ないし第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一号証、第一二号証の一ないし五、第一三、第一四号証
2 証人松井博、同吉村一幸
3 甲第一号証、第二号証の一ないし三(但し、第二号証の三のうち、ボールペンによる書込部分の成立は知らない。)の成立は認める。
理由
一 請求原因について
請求原因1および2の事実、すなわち本件更正処分および重加算税賦課決定処分があったこと、ならびに原告がそれに対して適法な不服申立手続を経た事実は当事者間に争いがない。そこで、原告主張の違法事由の存否については次の抗弁に対する判断に示すこととする。
二 抗弁について
1 抗弁1の事実、すなわち原告の昭和四七年度の所得税の確定申告、更正、裁決の内容は、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。
2 抗弁2の事実、すなわち原告から博洋に謝礼金として二、〇〇〇万円支払われたか否かについて判断するに、成立に争いのない甲第一号証、第二号証の三(但し、ボールペンによる書込部分を除く。)、乙第一ないし第四号証、第一〇号証の二、四、証人吉村一幸の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の三、証人松井博の証言により真正に成立したものと認められる乙第七、八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九号証、右証人吉村、同松井(但し、後記措信しない部分を除く。)の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠という。)は、本件土地を含む一帯の土地の造成分譲を計画し、これをフジタ工業株式会社(以下、フジタという。)に請け負わせ、右一帯の土地の買収を任せたのであるが、フジタは、本件土地に限って買収ができず、ついには、博洋に本件土地の買付けを依頼したものであるところ、博洋では吉村一幸が主たる担当者として、昭和四七年五、六月頃から本件土地の買収に当たり、吉村は、当初坪単価一万八、〇〇〇万円ないし二万円で原告と交渉したが、同人が容易に買収に応ぜず、フジタには絶対に売らない、一億円持って来いなどと主張するので、博洋の実質上の経営者である松井博は、吉村に坪単価二万五、〇〇〇円で折り合ってもよい旨を指示するにいたり、同年一一月二日博洋の社員である国崎晴雄を買受名義人として、本件土地について売買代金を八、二五二万五、〇〇〇円(時価相当)、仲介手数料を売主二五三万五、七五〇円、買主二四七万円とする売買契約が成立し、同日内金五〇〇万円が支払われ、同月一三日福岡市東区所在の押方司法書士事務所において、原告は、松井、国崎、吉村、正金相互銀行香椎支店長、伊藤忠関係者二名およびフジタ関係者一名の立合いで、残代金七、七五二万五、〇〇〇円をフジタ振出しの小切手で受領し、同日正金相互銀行香椎支店に新規開設された原告名義の普通預金口座に同額を入金したこと、原告は、翌一四日同口座から二五四万五、七五〇円(他に、二、〇〇〇万円二口、その他三口も出金している。)を出金し、博洋に前記仲介手数料として二五三万五、七五〇円を同月一三日付の領収書(甲第一号証)と引換えに支払い、同月一四日本件土地について伊藤忠名義への所有権移転登記を経由したのであるが、その頃、原告は、松井との間で、右手数料のほかに謝礼金として二、〇〇〇万円を原告から博洋に支払ったかの如き架空の領収書を授受することを話し合い、吉村は、右代金の完済から三、四日後に松井の指示で右趣旨の金二、〇〇〇万円の領収書(乙第一〇号証の二、なお前記手数料の領収書とは異なる用紙である。)を作成し、これを金銭の授受なしに原告に交付したものである。
この点に関して、証人松井博は、正金相互銀行香椎支店で謝礼金二、〇〇〇万円を現金で受領したと証言し、同証人の証言により成立を認めうる乙第一二号証の一、同一三号証中にも同旨の記載があるけれども、これらは、前掲証拠ならびに右認定の経緯に照らし、たやすく信用することができない。すなわち、原告は、本件土地を売り渋り、代金として当初一億円くらいの要求も出していたこと、伊藤忠ないしフジタにとって本件土地は絶対必要であったこと、本件土地の売買価格八、二五二万五、〇〇〇円は時価相当であったことからすれば、博洋が、原告に対し、正規の手数料二五三万五、七五〇円に比して不相当に高額と思われる謝礼金二、〇〇〇万円を要求し、原告がこれに応じるというのは不合理であるし、本件買収の主たる担当者である吉村が、本件買収の交渉過程で謝礼金の約定を知らなかったこと、同人作成の「経過概要」と題する書面(乙第一〇号証の三)にも謝礼金については触れられていないことからすれば、謝礼金二、〇〇〇万円の約定があったとするには不自然である。
また、前記本件売買代金が入金された原告名義の預金通帳には、昭和四七年一一月一四日付で二五四万五、七五〇円と二、〇〇〇万円の出金の記載があるが、この全額が博洋に交付されたとするには、特に二口に分ける必要性に乏しい点で不自然であるし、ことに、金二、〇〇〇万円もの多額の金具につき博洋側における入金処理、その使途の内容についての説明は極めてあいまいであって(松井証言、乙一二号証の一、第一三号証)、これらに鑑み、右預金通帳における金二、〇〇〇万円の出金記載の事実から、本件謝礼金の授受の事実を認めることは到底できず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
以上のとおりで、原告が、博洋に対し、その主張のごとき謝礼金二、〇〇〇万円を支払ったことはないと認めるのが相当であり、そうすると、被告が右金額を原告の昭和四七年度における申告外長期譲渡所得と認定してなした本件更正処分には何ら違法の点はないというべきである。
3 次に、前記認定の事実によれば、原告は、博洋に謝礼金として金二、〇〇〇万円を支払ったことを仮装し、同額の所得を隠ぺいしたものというべきだから、被告が、国税通則法六八条一項に基づいてなした本件重加算税賦課決定処分にも違法の廉はない(抗弁3)。
三 よって、本件更正処分および重加算税賦課決定処分は、いずれも適法であり、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柴田和夫 裁判官 寺尾洋 裁判官 遠藤和正)
<省略>